「私が、いま、貴社のブースに行かなければならないのは、なぜですか?」(『ガード下の赤ちょうちんから、愛を込めて。』no.2)

『ガード下の赤ちょうちんから、愛を込めて。』vol.2
今日もガード下にある、壁は油まみれの、安い焼き鳥屋では、髪をかきあげながら話をする、白いジャケットを着た女性と、短髪の、いかにもスポーツをしていましたという若い男性、目鼻立ちの整ったショートカットの若い女性が、運ばれてきた焼き鳥をそれぞれに頬張りながら、何やら話をしております。
「今日の合同説明会(※)はどうだった?」
(※)合同説明会とは、大きな会場に複数の企業がブースを出展し、企業の説明をする採用・就職活動のイベント。多くの求職者や学生が企業探しや説明を聞くために会場にやってくる。
と、髪をかきあげながら若者二人に質問する女性。
「厳しかったっす。11時から17時までの6時間で15人くらいです・・・。」
「やっぱり業界イメージが悪いんですかね。」
「みんな選り好みしてるんですよ。売り手ですしね。」
「なるべく条件の良い会社を探しているんじゃないでしょうか?うちも決して条件が悪いとは思いませんが・・・。」
二人の若者が、質問に対して答えます。
「ちゃんと呼び込みした?いまの求職者はさ、積極性がないからこっちから声を掛けないと決められないのよ。そのためにあなたたちを抜擢したんだから。明日はもっと呼び込みをしなさいよ!」
「・・・はい・・・」
売り手と言われている採用市場。
求人広告だけでは人材確保が難しく、
直接、求職者や学生と接触できる合同説明会は人気です。
そのため、求人広告会社も、広告とセットにして合同説明会を販売しています。
合同説明会の会場で、求職者や学生に対し、
就職相談や講演業務を行なう私は、
時間ができると企業ブースを見て回るようにしています。
そこで思うこと。それは・・・
“これじゃあ、求職者や学生が企業の説明を聞きたいと思う理由がない”
です。
知名度の低い企業にとって自社のことを知らない求職者や学生に、自社の説明を聞いてもらおうと歩いている求職者や学生に声を掛け、自社ブースに引き込む、いわゆる「呼び込み」は大事な要素のひとつではあると思います。
しかし、逆の立場で、歩いているだけで、多くの企業から声を掛け続けられたらどう思うでしょうか?もう辟易しませんか?
さらに、自社のブースを目立たせようと、装飾に力を入れる。これも大事に要素のひとつですが、周囲の企業がやっていないのであれば、目立ちます。しかし、昨今はどの企業でもやっていることで、装飾に力を入れれば入れるほど、限界が来ます。
求職者や学生に対する訴求ポイントに関しても・・・
・完全週休二日制
・初任給●●円から!
・人に感謝される仕事です!
などなど・・・。
確かに、求職者や学生は良い条件の企業を探しているのは事実でしょう。しかし、本当に条件だけで企業を探している人はいるのでしょうか?
呼び込み
装飾
条件や働きがい
これ、求職者や学生が「説明を聞いてみたい!」という動機・理由になりますか?
こんなことがありました。
私のお客さまが初めて合同説明会に参加した時のことです。
初めてということで、社長も張り切って参加してくれましたが、予算も掛けることなく装飾は最低限。条件は普通です。
参加した社長は、出展している企業の多さと、会場に訪れる学生の数に圧倒され、驚かれていました。
私はお手伝いで呼び込みをしていましたが、1時間経ってブースに来てくれた学生は15~6人といったところでしょうか?
ふと社長に言われたのです。「こんなに呼び込みをしなきゃいけないものなの?」
私はちょっと考えて、「普通はそうですが、リスク覚悟で面白いことができるとは思います。」と答えました。
「それはナニ?」と社長。
「周りを見てください。どの企業も必死に呼び込みをしています。しかし、それに辟易としている学生も多いです。中には、もうブースを回るのを止めて休憩所でスマホをいじっている学生もいますよね。」
「そうだね。」
「あえて、うちは呼び込みをしないと訴求するのです。社長も含めてお手伝いにきている社員さんにも『うちは呼び込みをしません。声も掛けません。ご自由におすわりください。』という看板を持たせて、立っているだけにします。もしかしたら全然来ないかもしれませんが・・・」
「おう、それ、やってみんべ」
実際に看板を持ち、それを面白がった社員は持っていたマスクに赤い字で大きく×印を書き、そのマスクをしていました。すると・・・
どんどんと学生がやってくるのです。座った学生に説明をしようとすると「あっ、話すんですね(笑)」という反応も。このケースは、結果だけ見ると、他社とは違うことをしたとか、目立つことをしたと言えるのですが、学生の行動を観察し、学生がブースに来てくれる理由、動機を探した結果として行なったことです。ですから、いま、この戦法が使えるかどうかはわかりません。しかし、その時の最適解でした。
何が言いたいのかというと、常に求職者や学生の動機や理由を考えてみるということです。合同説明会では、面接をする、内定を出すのではなく、まずは自社のブースに来てもらうことが目的になります。求職者や学生が自社のブースに来たくなる動機や理由は何でしょうか?呼び込みの多さでしょうか?目立つ装飾でしょうか?条件や働きがいを訴えることでしょうか?
貴社のブースに来てくれる動機・理由を徹底的に考えることです。
佐藤 洋介(メンバーページへ)
大学(日本史専攻)を卒業後、採用コンサルティング会社・ソフトウェア開発会社を経て、2018年にフリーランスへ。「人材の成長を促し、組織の成長サイクルを加速する」をモットーに、性格タイプ理論をもとにした人材採用領域、研修領域でビジネスを展開。近年は対話型組織、人間学にも注力し、組織に所属する人たち一人ひとりが輝ける場づくりを実践している。…続きを読む
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